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安心で持続可能な社会の構築に大きく寄与する
地震に強く、レジリエントな建築構造を研究
蔡 高創 (さい・こうそう) テニュアトラック准教授
国際先端科学技術研究機構(IROAST)
(IROAST在籍期間:2021年10月~)
地震という大規模自然災害に対し、建物が安全であることは不可欠です。構造設計や最適化、より強い建築材料の研究を通し、建築構造物の耐震性向上を目指しているのが蔡高創准教授。建築物の地震後の継続使用性の向上、また建築構造物の持続可能な発展を目指し、実験的・解析的な研究を進めています。
■ 目指すのは、より高い耐震性とレジリエントな低炭素社会の構築
Q: 研究内容について教えてください。
蔡:私の専門分野は構造工学と建築材料学。特に、二つの社会課題の解決を目指して研究しています。
一つ目の課題が、「大地震に対し、建物の安全性をどう確保するか」。地震の際の建築構造の性能や応答特性の理解、そして、極端な荷重下でも倒壊しない高性能な構造設計や構造内の細部加工技術の研究を通し、構造物の耐震性能の向上を目指しています。
その中で代表的な物は、レジリエント鉄筋コンクリート構造物です。レジリエンスという言葉で表される復原力は、1995年に発生した阪神・淡路大震災の後から、研究の世界でも注目されるようになりました。建物が倒壊しなかったとしても、大きな変形が残っていると、使えなくなるだけでなく、建物 の解体に多くの費用がかかります。構造物に強い自己復原力を持たせることができれば、防災や減災にとって意味のあることだと考えます。
二つ目の課題が、「建築構造物の持続可能な発展をどう促進するか」。建築構造物の持続可能性の向上に関しては、工業廃棄物をより良くリサイクルする技術や、火山灰などの自然廃棄物をセメントの代わりに利用する技術の研究も進めています。2019年の日本のセメント産業は4,147万トンの二酸化炭素を排出しており、セメントの使用量を削減することは非常に有意義であり、これも私たちの研究の背景です。また、構造物が解体に直面しなければならない場合、解体プロセスで発生する廃棄物をどのように再利用するかも最近の懸念事項です。私たちは、ドイツのダルムシュタット工科大学の同僚とこれらのトピックに取り組んでいます。これらは、低炭素・脱炭素社会の構築に貢献できると考えています。
これら二つの課題解決を目指した研究の一例が、新しい形の低付着超高強度鉄筋です。一般的によく見かける異形鉄筋と呼ばれる鉄筋は、一定間隔で節が入っており、この節で表面積が大きくなることによって、周りに流し込むコンクリートとの付着性を高めます。鉄筋と、圧縮に強いコンクリートの特性をうまく組み合わせることで、RC(鉄筋コンクリート)造の構造物は高い構造性脳を持つことができます。しかし、揺れが大きければ、倒壊はしなくても歪み、コンクリートの部材の表面が破壊されやすくなります。
研究室で研究している低付着超高強度鉄筋は、表面にスパイラル状の6本溝を加工しており、付着性を軽くすることで、繰り返し荷重しても鉄筋の周りのコンクリートに影響を与えず、大変形でもRC部材に復原力を与えることができます。
しかし、そのような構造物の強い地震に対しての安全性については、さらなる研究が必要です。最近では、構造の細部を最適化し、AI技術に基づく評価方法を含む、より高精度の評価方法を確立しています。
Q: どのような手法で研究をしていますか。
蔡:理論、実験、そしてコンピューターシミュレーション(例えばAIの活用)など、多岐にわたります。構造物への地震の影響をより適切にシミュレートするための構造実験を行う新しいシステムも完成しました。比較的大規模な実験システムで、今後、新しい計算モデルや解析手法、ソフトウェアの開発が期待でき、建築業界や社会全体に大きく貢献できると考えています。
Q: 共同研究は行っていますか。
蔡:高性能な繊維メッシュ補強コンクリートの研究を、フランスのリヨン大学と共同で進めています。
コンクリートは圧縮性能は良好ですが、引張性能が比較的弱いため、この高性能材料を使用して鉄筋コンクリート部材の引張特性を改善することで、部材の構造性能を大幅に向上させることができます。この強化繊維繊維メッシュを入れることでコンクリートの変形能力が向上し、地震による繰り返された荷重で構造物が変形するような状況でもコンクリートの破壊を防ぐことができます。
リヨン大学とは研究室間の同意書を結んでいて、そこの2名の博士課程学生に対し、共同指導も行っています。2人の学生の研究テーマは「環境および荷重下での高靭性複合材料の性能評価手法」「持続可能性を有する鉄筋コンクリート耐震壁の構造性能の評価方法」。また、中国の四川大学とは、「レジリエントな鉄筋コンクリート梁柱接合部の性能評価と耐震設計方法」に関する国際共同研究プロジェクトも始めました。同じく中国の西南交通大学とは、鉄筋コンクリート骨組構造物の充填壁の損傷制御技術に焦点を当てた研究の国際協力も開始しています。また、最近イギリスのロンドン大学シティ校とは、合成構造の性能評価及び最適化におけるAIの活用に関する研究も始めました。
■ 学際研究、国際共同研究にも活発に取り組める環境がある
Q: IROASTの良さはどんなところですか
蔡:まずは、十分な研究費が頂けることですね。独立した研究環境で、自由に研究に取り組むことができます。また、新しく完成した構造実験システムも、この研究費のおかげで整備することができました。
加えて、研究以外の業務が軽減され、十分な研究時間を確保できるだけでなく、国際協力や交流のための時間も取りやすいと思っています。IROASTにいる間により強力な研究ネットワークを構築できることは、若手研究者にとってとても役に立ちます。
Q: 熊本大学の良さはどんなところだと思いますか。
蔡:学術的に自由な大学であり、基礎研究と応用研究の両方に力を入れていますね。私自身も、自分の研究分野が関わる学際的研究を含む、様々な研究活動を進めることができています。また国際的な研究活動を重視していて、ヨーロッパや中国を中心に国際的な研究協力を進める私にとっては、ありがたいことだと思っています。
Q: 熊本大学やIROASTでの研究を考えている方へメッセージをお願いします。
蔡:長い歴史を持つ大学で、かつ、現代の研究や学問の自由、教育に対する情熱と活力があるのが熊本大学です。海外との連携も推進しており、私のように海外と共同で進める研究が多い場合、特に大きなメリットがあります。また、若手研究者に対する支援制度やサポート体制も充実しています。熊本という場所も、自然に囲まれた静かな場所で、人も親切です。大学内の同僚も熱心な人ばかり。IROASTの非常にダイナミックな環境で研究に専念できると思います。
リンク
- 蔡研究室
- Research Cluster