• HOME
  • NEWS
  • IROAST Researchers - 檜垣 匠 教授

NEWS

IROAST Researchers - 檜垣 匠 教授

Apr 18, 2022

English     Japanese

 

画像を使って植物の細胞を定量的に捉える
新しく切り開かれた学問領域

檜垣 匠 教授
IROAST国際共同研究員
大学院先端科学研究部(理学系)
(IROAST在籍期間:2017年8月~2021年9月)

 

熊本大学には、これまで顕微鏡をのぞきながら定性的にしか解析ができなかったものを、画像とコンピュータを使って定量的に測定する新しい学問領域を切り開いた先生がいらっしゃいます。2021年10月にテニュアを取得した檜垣匠教授です。

 

■ VRゴーグルや3Dスキャナーなど、2次元以外の世界で植物の細胞を見る

Q: 現在の研究内容を教えてください。

檜垣:植物の細胞の中で時々刻々と変化する細胞骨格やオルガネラなどの構造物を顕微鏡で観察したり、コンピュータを使って細胞構造の形や動きを解析したりする研究を行っています。今までよく行われてきた顕微鏡による目視観察は、観察する人によって見え方や解釈が異なりますし、同じ人でも例えば体調や気分などで結果が変わる場合もあります。しかし、コンピュータを使って細胞を測る場合、いつ誰がやっても同じ結果が得られることが期待できます。これは再現性と呼ばれ、科学において非常に重要なことです。また、目視だけでは気が付かなかったことがコンピュータによる解析によって明らかになることもあります。このように、コンピュータを使った画像解析によって人の観察能力を向上させる研究も行っています。

 その一方で、人が研究対象をじっくりと観察することもコンピュータをつかった解析と同じくらい重要だと考えています。これまでは顕微鏡のレンズを直接のぞいたり、撮影した画像を平面ディスプレイで観たりすることが主でしたが、最近ではVRを使って、まるで自分が細胞の中に入り込んでいるかのように観察することもできるようになりました。このような新しい観察手法の有用性についても検討を進めているところです。

 

Q: IROASTに所属されていたころから現在にかけて、特に手ごたえを感じられた研究はありますか?

檜垣:私はこれまで主に顕微鏡を使った細胞レベルの研究を進めてきましたが、IROAST所属中に工学系の先生との共同研究で、植物の個体レベルの立体形状の情報を一眼レフカメラにより取得し、例えば枝の角度など植物の特徴を定量的に評価するシステムの開発に成功しました。植物の高精度3Dスキャナーのようなものです。これは植物にほとんどダメージを与えませんので、植物の成長過程をデジタルアーカイブとして残すこともできます。画像解析という共通の技術で、細胞から個体へと研究対象を広げられたことは、IROASTに来てとても嬉しかった出来事のひとつです。

 

 

■ 工学系の先生やIRCMSとの交流から共同研究へ発展。研究に専念できる環境も魅力

Q: IROASTに来たきっかけは?

檜垣:関東の大学で任期付き教員をしていたのですが、所属していた研究室の教授の退職が近づいたこともあり、独立しようと考えました。そこで見つけたのがIROASTの公募でした。出身が大分ということもあり、もともと熊本には親近感を持っていました。

 

Q: IROASTの魅力は?

檜垣:IROASTには理学系と工学系の研究者が集まっており、異分野の交流が積極的に行われています。例えば、同じIROASTのテニュアトラック教員だったRude Lee先生(現・産業ナノマテリアル研究所)から声をかけてもらい、IROAST内での共同研究を行いました。Lee先生はナノ医療の専門家で、彼女が開発した病変検出プローブの評価の手伝いをしました。私は理学系ですが、このような工学系の先生方との交流はIROASTにいたおかげだと思っています。

 また、IROASTはIRCMS(熊本大学国際先端医学研究機構)とも積極的に交流していて、私もIRCMSで基礎医学の研究をされている先生方との共同研究も継続して行っています。このような共同研究ではお互いが得意な技術を持ち寄ることで、個人では達成できないような大きな研究を進めることができます。

 

Q: テニュアトラック制度の良さは?

檜垣:研究に専念できる環境です。大学教員には教育や運営など、自身の研究以外にもすべきことが多くあります。その点、テニュアトラック教員はかなり研究に専念できます。一方、テニュアトラック期間中に大学の教育や運営について学ぶ機会も多かったので、テニュア取得後も比較的スムーズに移行できていると思います。

 

■ 生物学も画像解析もできる若手研究者を育成したい

Q: 今後の展望を教えてください。

檜垣:画像の特徴として、分子から生態まで生物学が取り扱う幅広い空間スケールを表現できるという点が挙げられます。そこで、さまざまな倍率の画像の解析を通して、空間スケールを超えた研究を進めたいと思っています。例えば現在、個々の植物細胞の振舞いと細胞の集合体である器官の形づくりの関係を考える研究を進めています。これは細胞と器官という異なる空間スケールをつなぐ研究ですが、将来的には特殊な顕微鏡を用いてさらに細かい構造体の解析や、逆にドローンや衛星画像のような大きいスケールの解析にも携われればと思っています。いずれにしても、画像を通して生物を理解したいというスタンスです。

 また、これからは後進の育成にも力を注ぎたいと思っています。生物学と画像解析の両方ができる人材はまだまだ少ないので、生物学を専攻している学生たちにも画像解析の重要さと面白さを伝えたいと思っています。逆に工学系の学生に生物学の魅力を伝えることも大事だと思っています。学生や若手研究者の育成を通して、この研究分野の発展に少しでも貢献したいと考えています。

 

Q: 若手研究者へメッセージをお願いします。

檜垣:熊本大学にはIROASTのほかにも、IRCMS、発生医学研究所、先進マグネシウム国際研究センター、産業ナノマテリアル研究所など、世界をけん引するような優れた研究をしている場がたくさんあります。個々のレベルが高いだけでなく、若手研究者の交流も盛んです。

 また、熊本は住み心地が良い場所です。私も熊本に来て、通勤や住環境はとても快適になりました。子育てにもおすすめですので、ぜひ熊本大学での研究も選択肢に入れてみてください。


リンク
- 熊本大学理学部 画像生物学|檜垣研究室

Page top