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「植物は、小さな種からどうやって形を変えるのか」
その仕組みを遺伝子研究で明らかに
相田 光宏 テニュアトラック教授
国際先端科学技術研究機構(IROAST)
(IROAST在籍期間:2017年7月~)
最初は小さな種。それが、種類ごとに決まった形の花や実をつける。遺伝子の働きからそれを解き明かそうとしているのが、相田光宏教授です。植物の成長と形づくりの仕組みを追う基礎研究は、農作物の増産などの応用にもつながる可能性を持っています。
■ 植物が持つ「形の不思議さ」。その理由を追いかける
Q: まずは研究内容を教えてください。
相田:研究分野は植物発生学。植物が発芽して、成長する仕組みを調べています。
最初は小さくて、パーツもわずかしかない植物が、しばらくすると新しい葉を作り、どんどん成長して、最終的には花を咲かせて実をつけます。最初とはまったく違う姿になり、しかも、植物ごとに決まった形がある。その仕組みがどうなっているのかを、遺伝子から明らかにする研究です。地上にある茎や葉、花のおおもとは、茎の先端にある部分です。そこが植物の中でどうやって作られているのか。それに関わるさまざまな遺伝子とその働きを見つけることによって、植物の一生の最初のところで、成長に大事な部分をつくるしくみを明らかにすることができます。
Q: どのような植物を研究対象とされていますか。
相田:主に見ているのは、シロイヌナズナという植物です。実験室の中で育てやすく、一世代の時間が短いので、遺伝子を調べるのに都合がいい植物です。
シロイヌナズナと同じグループに、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワーや菜の花などの身近な野菜があります。ブロッコリーやカリフラワーでは花を小さなつぼみのままにとどめたり、花そのものをつけない状態にすることで、野菜として食べやすくなっています。これまで、長い時間をかけ、偶然にも頼りながら品種改良がされてきましたが、遺伝子やその制御機構を理解できれば、それをコントロールすることで作物の増産や、病害や自然の変化に強い植物を作ることも可能になります。私の研究は基礎研究ですが、そういった応用研究にもつながることが期待できます。
Q: なぜこの研究に進んだのですか。
相田:子供の頃から博物館が好きで、いろいろな生き物の標本や恐竜の化石などをみて、「形」の不思議さに興味を持っていました。大学院に進む時、それまではとても難しかった植物の遺伝子研究が、シロイヌナズナを取り入れることで爆発的に飛躍したんです。遺伝子の数が少なく、個々の遺伝子を取り出しやすいことや操作しやすいことが理由。仕組みはほかの植物とも共通しますから、シロイヌナズナで遺伝子機構が理解できれば、ほかの植物の研究の役にも立ちます。そういう流れが始まったのが90年代で、私が研究を始めたころと重なります。
■ IROASTのような期限付きの場で、成果を出す経験も貴重
Q: IROASTに来たきっかけは?
相田:当時所属していた研究機関での任期の終わりが近づいて、次を探していた時に募集を知りました。テニュアトラックで、所定の条件を満たしていればよいこと、研究費のサポートに加え、専門知識がある研究員を一人付けてもらえ、チームとして研究できることが魅力的でした。また、IROASTには、工学系分野を中心に幅広い分野の研究者が所属しており、それまで私が所属していた、バイオサイエンスに特化した環境とは違うところにもひかれました。
実際に着任して感じたのは、バランスの良さです。まったく違う分野の研究者の話を聞くのはおもしろいし、同じ分野の研究者でも違う技術を持っていて、そこから共同研究が始まりました。IROASTの外でも、例えば理学部所属の研究者は、対象とする植物は違いますが共通のテクニックがあり、私の技術とうまく組み合わせることで研究が進む、ということもありました。研究技術は、これまでに培われてきた基盤は大切にしつつ、そこに数学や化学、情報科学を組み合わせることで新しいものが生まれます。その点で、IROASTや熊本大学のバランスの良さは、研究にいい影響を与えてくれています。
Q: 国際研究についてはいかがでしょうか。
相田:IROASTは、積極的に海外の大学や研究機関と協定を結び交流することを推進しています。海外の研究者と組むことが前提のプロジェクトなどもあり、海外との繋がりを持つ後押しをしてもらえるのは、大きなメリットです。実際私も、あまり交流がなかった研究分野の研究者と共同研究を進め、いい成果が出ています。
Q: 学生や若手研究者へメッセージをお願いします。
相田:「研究がおもしろそうだ」と思うなら飛び込んでみてください。私も最初は躊躇(ちゅうちょ)しましたが、植物を顕微鏡で見た時、その美しさに魅了されたんです。その美しさがどうやって作られているのか分かると、研究をやっていて良かったと思います。知りたいと思う対象をじっくりと見て、何か問いを投げかかれば、ヒントが返ってきます。それを逃さないこと。それを見つける楽しみを味わえるといいですね。また、必ずしも研究の世界に進まなくても、研究というものが、社会を支える一部になっている、その営みを知ってほしいと思います。
IROASTについては、若手が研究に集中できる、いい環境があります。大学は教育機関なので、本来は教育や事務仕事にも時間を取られます。しかしIROASTでは、そういった時間を極力少なくし、若手が研究に没頭できるよう、できる限りのサポートをしてもらえます。「これが知りたい」というモチベーションとは別に、テニュアトラック制で期限を区切り成果を出す、という状況も、研究を加速させてくれます。研究者としてIROASTでそういう状況に身を置いてみるのもいいのではないでしょうか。
リンク
- Research Fields
- 植物発生学|相田研究室
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