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IROAST Researchers - 細野高啓教授

Oct 27, 2023

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地球の炭素や窒素の循環システムに
人間活動が与える変化を可視化

細野 高啓   教授
IROAST国際共同研究員/大学院先端科学研究部(理学系)

 


 

地球の自然界における炭素や窒素の循環システム。それが今、人間活動によってかく乱され変化し、気候変動や環境破壊の原因ともなっています。地球表層の水を分析することで、含まれる物質の起源がどうなっており、どう動いているのかを追究。人間が与える負荷による循環システムの変化を正確に可視化する。それが、細野高啓教授の研究です。

 

■ 水の同位体比を測定。目に見えない水や物質の循環を見る

Q: まずは、研究について教えてください。

細野:私は、地球の成り立ちを考える地球科学や地球システム学などをベースに、地球の姿が人間の活動によってどう変化しているのかを研究しています。その中で注目しているのは、地球表層の水。降水、地表水、地下水、深部の地質流体などで、これらの水サンプルを分析し、それらの同位体や水質の組成を把握します。

具体的には、質量分析計を用いて、水サンプルの中に含まれる元素の同位体比を測定。そこから得られるデータは、目視では確認できない地表や地下の水や物質の循環や、それらがなぜ変化しているのか、その原因を明らかにしてくれます。また、化学組成・同位体データと、その他の様々な関連情報を統合することで、水と物質の循環および人間活動による変化を正確に可視化。この可視化こそが、私たちが確立したい環境分析です。

 

Q: 水の中のどんな物質を見ているのですか。

細野:一つは炭素です。二酸化炭素は、今の地球温暖化の要因として知られています。排出された二酸化炭素が森林や大地に吸収され、残りの水中に溶存した炭素は最終的に海へ流れ出るというシステムは、元々自然界に存在し、ある一定の割合で保たれていたものです。しかしそれが今、人間による負荷のためかく乱されている状況。この変化は、二酸化炭素の収支を総合的に見ていかないと、どこがどう変わったのか、一言では言いづらいんです。私は水を軸に研究しているので、大きな炭素循環の歯車の一つとして、水の中の炭素を見ています。

サンプルを採取する一つが河川です。川は地形的には1本の線のように見えますが、流域に降った水が様々な場所を経て川に集まり、最後に海へと出ていくため、その水は流域全体の面的な情報を持っています。含まれる物質から、そこにどれだけ人間が住んでいて、どれだけ活動をしているか、そんな特徴を捉えることが可能。その特徴をベースに、この地域では炭素の吸収より排出のほうが断然多いのでこうしたほうがいい、というような対策と目標が立てやすくなります。そういう取組みは将来出てくると思うので、水循環の中の炭素循環に関する研究が、そのツールの一つになればいいと考えています。

Q: 地下水都市・熊本にとっては、地下水の変化も心配ですね。

細野:地下水の水質にとって、今、最も大きな問題の一つとも言える、窒素についても見ています。地球表層では、ほとんどが大気にある窒素。これを人工的に固定して肥料など産業に使えるようにしたことで、食料が増え、地球上の人間の数が増えました。同時に窒素酸化物は火薬の原料にもなるため、戦争の規模や形態にも影響を与え、世界は劇的に変わりました。

窒素は地下に浸透しやすいため、地下水汚染や富栄養化を招きます。その環境汚染はすでに陸域だけでなく沿岸といった様々な場所で顕在化しています。熊本は地下水を飲用水としていますので、持続的に使用できるよう絶えず注目する必要がありますね。今後、全国の河川の窒素成分を見てマッピング化するようなことにも挑戦したいと考えています。

炭素も窒素も、地球にあったもともとの循環システムが、人間活動による負荷でかく乱されて地球環境問題を引き起こしています。そういった見えない物質の移動や起源を、見える化することが私の目標です。

 

■ 理学研究で得た力を、環境問題に生かしたいと現在の研究へ

Q: なぜこの研究を始めたのですか。

細野:最初は、地球内部のマントルの流動や対流がどうなっているのかとか、金や銀などの金属鉱床がどこにどうやってできるのかなどを見ていたんです。ちょっとロマンがありますよね。そういった研究の中で特に興味をもったのが、安定同位体。その分析で、物質の行き来や起源を見ることができる、その有用性におもしろさを感じていました。

ただ、現在のような地球環境問題が出てくると、それが自分の基礎研究の部分をベースにした新しい研究対象となると思いました。当時は、基礎研究から環境研究へ行くと、「流行に乗るのか」みたいに思われる風潮がありましたが、私にアドバイスをくださっていた先生が勇猛果敢な人で、環境分野を新たに築こうとされていたことにも魅力を感じました。そのうちに気が付いたら、今の状況になっていましたね。

Q: どのような国際共同研究を進めているのですか。

細野:自らが海外、特にアジア・アフリカ地域に出向いて現場調査を実施することもありますが、海外から熊本に研究者が来て、熊本や九州の地で一緒に調査をしたりすることもあります。海外の研究者と長年一緒に研究をしていると、何気ない会話の中に、海外の動向を知る機会があったり、国が違っても同じような悩みがあるなと分かったり。

また、国際的に著名な先生と一緒に仕事をすると、その先生のスキルの高さに感動します。論文はこうやってスマートに仕上げていくのだと勉強できる。今は自分も人の論文を指導する立場になっているので、手伝って頂いたことを思い出しながらやっています。共同研究には、物理的なメリットというよりは、そういった目に見える部分以外のところに成果があると感じています。

 

■ 論文を書くと1本の筋が通る。論文サポートもIROASTの魅力

Q: IROASTに加わったきっかけは?

細野:一旦は大学で地学分野を教え、その後、環境系のことをやりたいと、研究所に就職しました。2年くらいたって、その後異動した大学でも水循環をやりたかったのですが、そこでは思うような研究環境が構築できなかったので退職しました。その後、慕っていた先生がおられたこともあり、熊本大学に来ました。もう退職されましたが、一緒に仕事ができてすごく満足しています。

その先生が、IROASTができる前にあった国際拠点のチームリーダーをされていて、私もそこに所属。IROASTが設立され、スライド式に所属することになりました。IROASTは、研究に対する資金的な援助があって助かっています。分析器の維持などには、結構なお金がかかりますから。また、論文発表には校閲などにもお金がかかるのですが、そういった部分にサポートがあるのも助かります。

Q: 休日はどのように過ごしていますか。

細野:私は論文を書くことが好きなんです。論文はしんどい作業だと思われがちですが、書くことで1本の筋が通る。また、書いている過程で次につながる学術的な問いもはっきりしてきます。論文作成は、そういった自分の考えを整理し、次への課題も明確にし、すっきりした気分になる作業だと思います。だから、休日は、「やっと腰を据えて論文が書ける」と思い、論文作業に充てていました。ただ最近は、平日の業務が増え、そこに支障をきたさないように、休日は休みも取り入れ体調管理に努めるようにしています。


リンク
- IROAST Staff - 国際共同研究員
- 熊本大学理学部地球環境科学講座 水圏環境科学研究室

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