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IROAST Researchers - 石田 桂 准教授

Nov 1, 2023

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物理モデルと深層学習、両方で進める水文気象研究
気象・水文の予測精度を上げ、防災・減災につなげる

石田 桂  准教授
IROAST国際共同研究員/くまもと水循環・減災研究教育センター

 


 

石田桂准教授の専門の一つが、大気中や地上・地表の水の流れである水文を見る水文気象学。物理的手法とAIの深層学習の両方を活用し、降水量や洪水などの予報精度を上げることを目指した研究を行っています。甚大化する自然災害に対する防災や減災にもつながる研究について、石田准教授に話を伺いました。

 

■ 地球上の水の流れを把握し、理解する研究

Q:どのような研究をされているのですか。

石田:専門は水文気象学で、気候変化、洪水・渇水、水資源などをテーマとしています。現在IROASTにおいてメインで取り組んでいるのが、大気中や地上・地表の水の流れである水文に対し、深層学習を有効利用する研究。様々な水文問題に対応する深層学習アプローチ、深層学習技術の評価、そして、水文問題に特化した新しい深層学習技術の開発などを目標としています。

その先にある一つが、降水量や洪水の予報精度の向上です。私はもともと、三次元の大気シミュレーションなどの物理モデルが専門。そのほか、地表の水の流れなどにも、数値シミュレーションという手法を使って研究をしてきました。しかし現状ではその精度には限界があり、そこを補完する形で取り入れるようになったのがAIです。例えば、物理モデルで予測された降水量予報を入力し、さらに過去の観測データと照らし合わせてAIに学習させ、予報が外れている部分を調整させていくというもの。ほかにも、大気モデルで数値シミュレーションを行う時に、風の流れ、気圧、大気中の水分量などの情報をAIに学習させ、降水予測の精度を向上させるような研究も行っています。

 

Q: 気候変動への対応にも関わる研究ですね。

石田:これまでずっと研究してきたことの一つに、地球温暖化の水循環に対する影響評価があります。例えば地下水への影響については、降水量や気温などのデータを学習させて地下水の変化を予測するという研究を、物理モデルとAIの両方を使って行っています。

地下水については、降水や気温、地表の水の流れなどの条件を入れて三次元的な地下水分布を導き出すことができる物理モデルを作成しています。一方、AIで直接求めるものは、ピンポイント予測。測定されている地点での雨や気温の関係を学習させ、そのポイントの予測を出すという方法です。

地下水だけではなく、雨の量、豪雨の頻度、洪水、河川流量、雪の分布と雪解けの変化なども見ています。これらの予測精度を上げて、災害が発生しそうな時に、被害をいかに減らすか、そういった防災・減災の視点からも研究を続けています。

 

■ 海外経験者が多いIROAST。国際論文やハイレベルな研究は「特別」ではない

Q: なぜこの研究を始めたのですか。

石田:私は京都大学の農業土木出身。卒業後渡米し、ポスドクとしてカリフォルニア大学デイビス校で研究を行いました。そこが、地球温暖化の問題などについて世界最先端レベルで研究をする研究室だったことがきっかけで、この研究を今も続けています。

もともと水循環に興味があったことも理由です。5年間いたカリフォルニアは災害の多発地帯。洪水と渇水が両方起きるため、それらが今後どうなっていくのかにも興味を持ちました。

Q: 国際研究も積極的に行っていると伺いました。

石田:IROASTのおかげで、国際共同研究はかなり進めさせてもらっています。今は主にトルコの研究者と共同で行っています。彼は、私が所属していたデイビス校の元同僚。アメリカ時代からずっと一緒に研究をやっていたので、気軽に共同研究に取り組みやすいという背景はありました。

共同研究の良さの一つが、研究予算を取ってきやすいこと。そしてもう一つが、他国のデータを見ることができることです。国によっては、河川のデータを公開しません。日本は島国で河川のデータを公開しても同じ国の中の話になりますが、海外では1本の川の流域が数カ国にまたがることもあり、自国内の川のデータを表に出すと面倒なことになる、という事情があるからです。国際研究は、そういった垣根を超えることができます。

Q: IROASTの環境はいかがですか。

石田:IROASTに在籍しているのは、ほとんどが海外での研究を経験した研究者です。私もその一人として感じるのは、海外での研究を経て、国際論文に対する敷居が低くなったこと。国際論文というと、若手研究者や学生にはとてもすごいもののように感じると思いますが、アメリカでは、どこに出したとしてもそれは国際的な論文集なので、論文=国際論文であることが当たり前、という意識になりました。

それから、私が在籍した研究室は、先生方、そしてその先生方とつながっている研究者にとてもハイレベルな方が多かったんです。そのおかげで、ハイレベルな研究者や研究に対しても特別視することがなくなった。これは、IROASTにいる研究者、みんな同じだと思います。

 

■ 好奇心を満たすことは、人としてもっとも充実できること

Q: 研究の醍醐味はどのようなことですか。

石田:私は「好奇心のおもむくままに」をモットーにしています。好奇心が満たされることこそ、人としてもっとも充実できることだと考えています。例えば今はAIを研究していますが、AIというものが、どういう形で私の研究分野に使えるのか、どこまで使えるのか、AIの性質とはどういうものなのか、一つひとつ発見していくことにはとてもワクワクするし、そこから新しいものを作っていくことも楽しいと思います。

また、「人に認められる」という醍醐味を、研究者は味わうことができます。私は、対象地域における最大降水量を、領域大気モデルを用いて物理的に推定する新しい手法を開発する研究で、アメリカ土木学会の『J. James R. Cross Medal 2016』をファーストオーサーとして受賞。これは、とても嬉しかったですね。

 

Q: 休日はどのように過ごしていますか。

石田:研究者は年中無休です。ただ最近は、子どもの部活の手伝いで、大学に来ない日もできました。審判や応援、写真撮影を頑張っています。

Q: 若手研究者や学生のみなさんへ、メッセージをお願いします。

石田:研究者は、何よりも自分の好奇心を優先している人。極端な言い方かもしれませんが、社会の常識よりも自分の思想や目指すものを基盤にしています。今ある常識を覆して新しいものを作るのが研究者なので、今の世の中に合わせようという気持ちはあまりない(笑)。一般的な社会では少数派かもしれませんが、自分の好奇心を大事にしつつ、頑張って夢を追いかけてほしいと思います。


リンク
- IROAST Staff - 国際共同研究員

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