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IROAST Researchers - Dmitri Aleks Molodov卓越教授

Jun 6, 2023

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金属材料の複雑な構造を解き明かす:
金属材料の魅力とチャレンジ

Dmitri Aleks MOLODOV 卓越教授
国際先端科学技術研究機構(IROAST)
アーヘン工科大学 地質資源・材料工学部(ドイツ)


 

 モロドフ卓越教授は20年以上にわたり、熊本大学大学院先端科学研究部の連川貞弘教授と研究交流を築いてきました。2016年10月からはIROASTの客員教授として、また2021年11月から卓越教授として、熊本大学の研究者との国際共同研究や、国際シンポジウム等での特別講演、大学院学生との研究討論などを行っています。またIROAST国際アドバイザリーボード委員会の委員として、IROASTの取組みや成果などについて国際的な視点からの提言を行うなど、IROASTで重要な役割を果たしています。

※ 本記事は英語での書面インタビューを和訳したものです。
英語の原文はこちらをご覧ください。

■ 微細構造の探究:特性評価、制御、基礎研究を通じて

Q: 研究内容について教えてください。

Molodov:私は金属材料の研究に従事しています。主に金属や合金の微細構造進化の特性と制御、結晶性固体における界面の熱力学と動力学、そして結晶塑性についての研究を行っています。金属材料では、塑性変形と塑性変形後の熱処理によって重要な微細構造の変化が引き起こされます。これらのプロセスによって、結晶粒の欠陥密度や配向分布が大きく影響を受け、それによって材料の特性も劇的に変化します。私たちは、アルミニウム合金や鉄合金(例えば、耐熱鋼や高強度のTWIP鋼やTRIP鋼)を含む異なる金属材料や純金属、合金における、変形や再結晶、結晶流成長の過程での微細構造や組織の変化を調査してきました。

この研究では、結晶固体が原子単位で再構成される結晶粒界の運動が微細構造進化の基本的なプロセスであることを念頭におきながら、基礎的な課題に並行して取り組んできました。現在では広く知られている通り、多結晶固体にはさまざまな特性をもつ構造的に異なる境界が存在し、それぞれ異なる特性、特に異なる運動特性を持ち、外力に対して非常に異なる反応を示します。そこで、アーヘンの私たちの研究グループは、粒界ダイナミクス、すなわち外力に対する粒界の応答、粒界の運動、そのメカニズム、材料の粒界構造、化学組成、微細構造への依存性を実験と原子レベルのコンピュータシミュレーションの両方で研究することに重点を置いてきました。重要な点は、結晶性固体には平均的な代表的な粒界が存在しないため、粒界の特性を正確に測定するには、特別に成長させた双結晶の個々の粒界で測定することが最も適しています。これが、私たちが用いているアプローチの基礎となるものです。そこで、過去数十年にわたって、粒界挙動の基礎的な側面について、数多くの実験やシミュレーションを行ってきました。その他にも、粒界の特性の調査を目的とした特別な研究室を設置し、独自の測定方法や技術を使用しています。

Q: その研究を始めたきっかけは?

Molodov:学生時代から、私は結晶性固体の結晶粒の微細構造に魅了され、それらが改質や設計が可能な性質を持っていることにも興味を持ちました。そして研究を進めていく中で、それを特徴付けるための実験手法の応用と開発、また界面の特性とその構造の関係の解明に興味を持つようになりました。そのため、ポスドクの職やフェローシップを経て、この分野の研究に専念できる機会に巡り会えたときは、喜んで引き受けました。

Q: 今後、研究成果として期待されることは何でしょうか?

Molodov:私の理解と経験に基づくと、金属や結晶性材料の特性は、材料の全体的な化学組成よりも、その微細構造、つまり元素、相、欠陥、結晶配向の空間的分布によって、はるかに大きく左右されます。そのため、微細構造の進化を制御することは、材料の使用時の性能向上や、望ましい(あるいは具体的に指定された)特性を持つ材料を創り出す可能性を提供することができます。したがって、結晶材料の微細構造の進化を包括的に制御する信頼性の高い手法の確立が、私たちの研究の成果のひとつとして考えられます。

■ 研究者としての道を選んだきっかけ:家族の影響と学術コミュニティへの魅力

Q: 研究者になろうと思ったのはいつ頃ですか?

Molodov:私が研究者になることを決めるきっかけの一つは家族にあります。父が化学工学の博士でした。さらに、金属学や金属物理学の分野で、優秀な先生方や優れた研究者の方々から指導を受け、研究への真の興味をかき立てられました。そのため、学位取得直前に、アカデミックなキャリアを歩むことを決意しました。また、当時、私がいた社会では、アカデミックな環境が最もリベラルで自由な発想を持つ場所で、そこが私の加わりたいコミュニティであったことも重要なポイントでした。

私が長く研究に関わっているのは、現象の根底にあるメカニズムについて新たな知見を得ること、あるいは現象とその原因との関係を解明すること、そしてそれを社会と共有することのためです。ここ数十年は、若手研究者と知識や経験を共有する機会も増えています。

Q: 熊本の印象はどうですか?

Molodov:私は熊本に来ることを本当に楽しんでいます。もちろん私のホストである連川教授との実り多い科学的かつ友好的な関係が一番の理由ですが、熊本には歴史的な名所や文化的な魅力がたくさんあるからです。また、インフラが整備され、日常生活に必要なものがなんでも揃っている熊本は、働きやすく、住みやすい都市だと思っています。また、ヨーロッパの雨や風の多い地域から来ているので、熊本の美しく晴れやかで温暖な気候もとても楽しんでいます。

アーヘン工科大学 物理金属学・材料物理学研究所の「Grain boundary dynamics」グループメンバーとともに
(左から右へ: Dr.-Ing. Christian Haase, Dr. rer. Nat. Jann-Erik Brandenburg, M.Sc. Marcel Schneiderとモロドフ卓越教授)

■ 熊本大学の国際化の鍵:私たち卓越教授と客員教授のネットワーク

Q: IROASTに期待することは?

Molodov:熊本大学での若手研究者の育成や登用の効果は、とりわけ、研究や教育の更なる国際化の推進と密接に関連しています。昨年のIROAST国際アドバイザリーボード委員会でも提言しましたが、IROASTの卓越教授や客員教授が持つ人脈が国際化の鍵を握っているでしょう。彼らが修士課程や博士課程の進捗状況の評価委員会に参加したり、大学院生のセミナーやラボミーティングに積極的に参加したりすることで、修士課程や博士課程の学生の指導やメンタリングに関与し、研究と教育の国際化に貢献することができます。また、IROASTの客員教授などが、受入教員の講座で、学部生や大学院生を対象とした補講を行うことも提案します。若手研究者や学生たちに多様な視点や知識を得る機会が提供され、研究の幅を広げることができます。

国際的な研究ネットワークを構築するには、海外の大学や研究所の若手研究者の研究滞在を支援することです。テニュアトラックプログラムやポスドク招へいプログラム、インターンシップなどのIROASTの事業を客員教授のコネクションをつかって広くアピールすれば、若手研究者の育成と国際研究ネットワークの構築に大きく貢献できると思います。

またIROASTの重要な活動である、国際シンポジウムやセミナーの開催は、これまで同様に継続されるべきです。これらのイベントはアカデミックの世界での交流の場として大きな役割を果たすでしょう。

Q: これからの研究者に向けたメッセージをお願いします。

Molodov:IROASTの卓越教授として、科学的なキャリアを志す学生に次のようなアドバイスをします。

まずは、積極的に国際的で科学的な共同研究やネットワークに参加しましょう。これにより、科学的な経験がさらに広がり、自身の研究能力やコミュニケーション能力も向上します。その結果、自信をつけるだけでなく、楽しみや喜びも得られるでしょう。

それからもう一つ。研究者としての給与は、製造業の企業に比べて少ないかもしれません。しかし、その一方で、労働時間においては自由度が高く、独立した意思決定をする機会も増えます。研究者としての働き方は、個々人の価値観により異なります。自分が何に重きを置き、どのような研究活動を追求するのか、自身の目標や情熱にしたがって選択してください。

2023年5月、大学院生を対象に「材料界面物性学」の講義を2回行いました


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- IROAST Staff - 卓越教授

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