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次世代を担う二次元分子材料
化学と物理の融合が創り出す新材料を研究
張 中岳 テニュアトラック准教授
国際先端科学技術研究機構(IROAST) (IROAST在籍期間:2023年1月~ )
北京大学卒業後、米国・テキサス州のA&M大学で5年半、名古屋大学で約10年の研究生活を過ごし、2023年の始めにIROASTに赴任した張 中岳准教授。現在、化学や物理学において、次世代の半導体や超伝導体の材料として注目されるグラフェンをはじめとした、二次元材料を専門に研究しています。研究の難しさや醍醐味、IROASTの研究環境について語って頂きました。
■ 半導体などの新材料として注目される二次元分子材料
Q: まずは、研究内容について教えてください。
張:私は、二次元材料、中でも二次元分子材料と言われるものを作る研究しています。その中で、次世代の半導体や超伝導体の材料として注目されているのがグラフェン。グラフェンには量子ホール効果など興味深い固有動作が多く見られ、物理学の新しい潮流を生むような、非常に大きな可能性を示している材料です。多くの科学者が、合成によってグラフェンのような材料を作ることができないかと考えており、私もその一人。グラフェンと同じような形態と電子的性質を持つ二次元分子材料を新しく作るための研究を行っています。加えて、一般的な材料に、異なる電子特性、磁気特性、半導体の挙動を持たせるために、様々なモチベーションとアプローチで挑んでいます。
Q: なぜこの研究を始めたのですか。
張:学生時代に、有機伝導体や有機超伝導体分野を学びました。これらは、化学と物理学を組み合わせた分野。新しい材料を作ることを目的とする化学分野では、現在特に、半導体や超伝導などの物性や、有機材料であるスピン液体の機構について解明を目指した研究が多く進められています。私にとっても興味深く、この研究を始めることにしました。専門は錯体化学ですが、化学と物理を組み合わせ、自分自身の研究を発展させていきたいと考えています。
Q: どんなところに、研究のおもしろさや難しさを感じますか。
張:おもしろいと感じるのは、他分野の研究者と私の研究について話していると、「そんなことができるのか」と驚かれること。やはり、この半導体や超伝導体に関わる新しい材料の研究には、多くの人が興味を持つのだなと感じます。
同時に、この研究は化学と物理学が融合しており、その両方の知識を必要とする難しい分野でもあります。基本的に私は化学が専門なので、物理学に関しては十分なバックグラウンドがありません。一方で、物理学の研究者と話す時、彼らには化学に関して十分な知識や経験がありません。私たちがともに研究を進める時には、お互いがお互いの話すことを理解しているかどうかを確認することが不可欠です。
また、私たちは、まだ誰も知らない、論文や文献にも載っていないことに何度も遭遇します。誰もまだ理解していないことを明らかにすることは、とてもチャレンジング。しかし、研究を進めるにはそれが不可欠です。そしてもちろん、これまでになかった概念や現象を発見できることはとてもエキサイティングであり、それこそが研究の醍醐味だと思います。
■ 日本と、欧米の研究環境の良さが融合したIROAST
Q: IROASTについて、どう思いますか。
張:IROASTには、若手研究者が独立した研究者となるためにとても良い環境が整っていると思います。異なるバックグラウンドを持つ、異なる国出身の研究者たちとアクセスでき、彼らと議論をする機会も多い。それが共同研究にもつながります。私の印象ですが、日本にはあまりこういった環境はありません。IROASTは、日本の良さもありつつ、アメリカやヨーロッパの仕組みや考え方を融合させた研究センターだと感じます。
私自身、IROASTに来た最大の理由は、新しい研究を行うだけでなく、国際的なプラットフォームを構築したいと考えたから。他分野の研究者と学際的な研究を進めるチャンスだと思いました。IROASTに着任して約8カ月になりますが、実際、自分の研究について国際的な研究者たちと議論する機会や、新しいアイディアにつながるヒントを得ています。そこから新しく、分子電子研究チームである研究ユニットを構築することになり、準備を進めています。
Q: 熊本大学の印象はいかがでしょうか。
張:熊本大学に来て、それ以前に教えていた学生たちとは少し違うことに驚きました。熊大生はコミュニケーションに熱心で、自分が感じていることを伝えたい、分かち合いたい、そして意見が違えば自分の意見を受け入れてもらいたいと思っている、そんな積極性を感じます。もちろん学生なので知識量はまだ十分ではありません。だからこそ、コミュニケーションが不可欠。もし彼らが私と距離を置き、理解できていないのに何も聞いてくれなければ、彼らを教え導くこともできませんから。彼らが積極的に、分からないこと、不満や困っていることを話しに来てくれる。これは熊本大学の良さの一つだと感じています。
■ 研究者として成長したいなら、IROASTへ来てほしい
Q: 休日はどう過ごしていますか。
張:以前いた名古屋では、休日は家族と共に過ごしていました。今は、まだ名古屋にいる家族が来春に熊本に来るのを待っているところ。休日は、研究に関する本をコーヒーショップで読んだりして過ごしていますね。
Q: IROASTで働きたい研究者へメッセージをお願いします。
張:何か違うことにチャレンジしたい研究者には、非常に適した組織です。研究者に挑戦する自由を与えてくれるだけでなく、若手研究者が独立し、アカデミアの世界で新しい役割を果たすことを、資金をはじめ様々な側面から支援してくれるのがIROASTですから。
ポスドクや助教のような立場では、やりたいことをすべて実行することはなかなか難しいもの。しかしIROASTには間違いなくそのチャンスがあります。自分のコンフォートゾーンから抜け出し成長したいと思っている方、ただ指示に従うだけではなく自ら責任を負って研究をしたい方は、ぜひIROASTに来てほしいと思います。